新型コロナウイルスの感染を広げないため、国が示した「新しい生活様式」には、こと細かに具体例が示されている。だが先が見えぬ状況の中、「どこまで守ればいいのか」「すべて実践するのは大変」と感じる場面も多い。ストレスなく日々の生活に取り入れるための「思考のデザイン」を、行動経済学や心理学の専門家に聞いた。
拡大する京都・宇治市役所のトイレに貼られているポスター。手洗いを促すことを期待している(市役所提供)
公共交通機関での会話は控えめに▽狭い部屋での長居は無用▽店での買いものは素早く――。日常生活のいろいろな場面で求められている新しい生活様式の一例だ。感染防止は必要だが、どこまで厳しく実践すべきなのかわかりづらい。
戸惑う現状、ダブルバインド
それは現状が「ダブルバインド」に近い状態だからだと、行動経済学が専門の東北学院大の佐々木周作准教授は指摘する。矛盾する二つのメッセージで混乱してしまう状況を指す。緊急事態宣言中は「ステイ・ホーム」とできるだけ家にいるよう求められてきたのが、今はリスクを抑えつつ経済活動も再開するよう求められており、正反対に思える要請に心の整理がついていない人が多いという。「感染リスクが大きく認識されている中、戸惑うのは自然な反応だ」と佐々木さんは言う。
さらに、「新しい生活様式」には個人の意識だけでなく、社会のルールや認識が変わらなければできないことも含まれる。例えば時差出勤や在宅勤務は、会社が認めないとできない。
こうしたルールをつくる際に役立つのが、行動経済学で言う「ナッジ」だ。ひじで軽く押すという意味で、「○○するな」と制限するのではなく、選択の自由を残しつつ、望ましい方向にそっと後押しする考え方を言う。2017年のノーベル経済学賞受賞で注目され、国内外で政策に取り入れられている。
たとえばテレワークを広げたいならば「在宅が基本で、申請して出社する仕組みを採用することでテレワークが定着する可能性がある」と佐々木さん。行動経済学では「デフォルト(初期設定)」といい、特に強いこだわりがない場合や一歩踏み出しにくい場面では、人はあらかじめ設定されたものを選ぶ傾向にあるという。
中部地方のある警察では宿直明けの休暇取得が推奨されつつ、「同僚に迷惑がかかる」という心理がはたらき、休みをとる人がなかなか増えなかったという。そこで「宿直明けは休み」をデフォルトとし、休まないときは上司に申請する仕組みに変えたところ、休暇取得が進んだ。
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