Search

FCVと1カ月生活記【第2回】東京=岐阜往復レポート - EVsmartブログ

首都圏以外の水素ステーション事情は?

クラリティ FUEL CELL(以下、FC)生活が始まった。走行感覚はバッテリーEVと変わらない。イグニッションをオフにした後、ほぼ毎度「コンコンコン」とも「カチカチカチ」とも聞こえる音がする。これはEVにはない。ホンダに尋ねると、発生した水を車外に排出する音、もしくは(次回始動時に備え)車内の水素圧力を調整している音が考えられるとのこと。なるほど。音が気になって不快というわけではなく、むしろ興味がわく。排ガスではなく水を排出するのだ!

さてICE(Internal Combustion Engine=内燃機関=エンジン車)はエネルギーを液体の化石燃料の状態で、EVは電解液(イオンというべき?)の状態でそれぞれ車載するのに対し、FCVは圧縮水素を気体の状態で車載する。製造(精製)、流通、使用(走行)、廃棄というクルマのライフサイクルを通じ、どの仕組みが最も高効率かという議論が、技術、政治、経済、環境の各方面の思惑が絡み合いながら、長年世界中で行われているが、FCVが乗用車でも一定のシェアを獲得することはあるだろうか。

というマクロの視点はもちろん重要だが、ユーザーの立場でFCVを考えた場合、最も気になるのは必要な時にエネルギーを補給できるかどうかということだ。

関東地方には水素ステーションが約50カ所ある。東京なら10km走っても見つからないということはまずない。これを十分と感じるか否かは人それぞれだろうが、一点、深夜営業がないことは頭に入れておく必要がある。

では首都圏以外のステーション事情はどうか。日本全国で約80カ所。なんと6割超が関東に集中していることになる。当然非常に少ない地域もある。都市部以外での水素ステーションの見つけやすさを調べるとともに、クラリティFCの実際の燃費性能を計測するため、一泊二日で遠出してみることにした。

太平洋ベルト地帯に沿って西を目指す

クラリティFCには大小ふたつの水素タンクがあり(乗員スペースを稼ぐために分割)、容量は合計141リッター。このタンクに最大70Mpa(700気圧)で圧縮した水素を、重量にして約5.0kg充填することができる。カタログによれば、JC08モードで750km(EPAモードでは約589km)走行することができる。

行き先はどこでもよかったのだが、東北や北陸地方には水素ステーションが極端に少ないため、FCV初心者として、大都市が連なる太平洋ベルトに沿って西進することにした。

前夜、東京都練馬区のステーションで満タンに。当日は新東名高速ルートで315.8km離れたとよたエコフルタウン(豊田市のステーション)へ。3.0kg(3666円)を充填した。燃費は105.3km/kg。ただしこれは正しい数値ではない。

というのも充填前にスタッフが申しわけなさそうに「古い機械なので圧力が弱く本来の満タンにはなりません」と言ってきた。気体なので入る量は圧力次第だ。本来は定められた70Mpaで入れ続けて止まったところが満タンなのだが、このステーションは愛・地球博(2005年開催)で設置したおそらく国内最古の機械のため、仕様として30〜40Mpa程度の圧力しかかけられないそうだ。

別の機会に東京・芝公園の水素ステーションでも一時的な不具合によって低圧力での充填を余儀なくされた。充電施設にも存在する性能差、当たり外れは水素ステーションにもある。

エンジン車換算でおよそ9.3km/ℓ程度のエネルギーコスト

さらに67.5km走行してセントレア空港敷地内のステーションへ移動。ここは機器が新しく「ここで入れると皆さん燃費が悪くなるんです」とスタッフ。要するに圧力が十分で水素がたくさん入るので、満タン法での燃費値が悪くなるという意味だ。

1.4kg(1694円)を充填。ここまで383.3km走行し、4.4kgを充填したことになる。燃費は87.1km/kg。基準がないから良いともとも悪いとも判断がつかないが、かかった5360円という費用は、レギュラーガソリンを130円と仮定すると、約41.2ℓ分に相当する。このため燃費9.3km/ℓのICE車と同じ費用がかかったことになる。EV/PHEVに比べて経済的とは言えない。ただ時折雨天で、結構ハイペースだったことは書き添えておくべきだろう。

なんとなく名古屋でうなぎでも食べて帰ろうと考えていたが、近くの岐阜県関市も鰻を出す店が多いと聞きつけ、興味がわいて北上した。鰻には背開きして蒸してから焼く関東スタイルと、腹開きして蒸さずに焼く関西スタイルがあるが、関も蒸さずに焼くスタイルが主流という。地元の有名店「辻屋」へ。パリッとしていてうまかった。

高速道路SA/PAに水素ステーションは、ない。

翌朝。帰路に中央道ルートを選んだ。ところで全国の自動車専用道路のSA/PAに水素ステーションがどれくらい存在するかをご存知だろうか。答えはゼロ。ないのだ。

クラリティFCのカタログ上の航続距離は750km(EPAでは579km)。7掛けとして525km(同406km)。多くのEVよりも航続距離は長いが、充填には必ず一度高速道路を降りなくてはならない。これはFCVで遠出する際の心理的な障壁となる。

とはいえ中央道ルートでの岐阜〜東京は約390km。何もなければ途中で充填せずに帰ることができるはずだし、取材なので何かあれば降りて水素ステーションに立ち寄ればよい。

中央自動車道は愛知県〜東京都を結ぶ大動脈のひとつだ。東名高速がおおむね直線的なルートなのに対し、中央道は山間部を縫うように通っていて、全体的に曲線の連続だ。加えて南アルプス山脈を避けるため、ひらがなの「く」を90度右に倒したような大きな迂回部分がある。

もうひとつの違いは、東名高速が比較的フラットなのに対し、中央道はアップダウンが多い。今回、このアップダウンによって天国と地獄を交互に味わい、ずいぶん心をかき乱された。FCVでも登りでは車載燃費計が示す航続可能距離の減りが速く、下りでは遅い。大きな駆動用バッテリーを搭載して回生するEVやPHEVのように、下りで減りが遅いどころか航続可能距離が大幅に増えることはないものの、減りは遅いし、わずかながら駆動用バッテリーを積むため、多少増えることもある。

航続距離性能が十分に長いPHEVは別にして、EVやFCVの場合、登りが続く区間では、航続距離の減りの速さから、まず心にさざ波が立ち、やがて次の充電スポット、水素ステーションへ到達できるかどうかで頭の中がいっぱいになる。充電チャンスがあったのに面倒だからとスキップして後悔するのは“EVあるある”だが、FCVの場合、高速道路上で充填のチャンス自体がない。後悔するなら出発前の計画のいい加減さに対してということになる。

けれども、これが下り区間に転じ、走行しても航続可能距離が減らなったり増えたりすると、とたんに登り区間での心配はどこかへ吹き飛び、一気に心に平和が訪れ、強気に転じ、やがて万能感に変わる。エアコンを使いたいだけ使い、走行ペースも上がる。

このままでは、東京まで帰れない……?

喉元過ぎれば熱さ忘れる。再び登り区間となると、不安に見舞われる。EVユーザーにとってその“あるある”はいまさらかもしれない。しかしFCVで走行中の浮き沈みには、EVの比ではない重みがあるのだ。

どうして下りでもっと燃費走行をしておかなかったんだ! と自分を責めても遅い。中央道は諏訪南ICと小淵沢ICの間に標高1015mの最高地点がある。そこを登りきった時点で残り距離が航続可能距離を超えていた。……帰れない。

登りとはいえ、朝充填したのにこれほど激しく航続可能距離が減るのはなぜだろうか。主要因はハイペース過ぎることだが、猛暑によるエアコン酷使や、一部区間でゲリラ豪雨によって走行抵抗が増加する不運もあった。それにしても……。

ただこの先は最高地点からの下りだ。残り距離と航続可能距離の関係も好転するはずと信じ、走行を続けた。その通り、残り距離は減るのに対し、航続可能距離はほぼ減らない。数字が近づき、同じになり、逆転した際、万物への感謝を気持ちが芽生えた。

一難去ってまた一難。南アルプス市を過ぎ、あとはひたすら下りかと思いきや、今度は富士山に近づき、再度標高が上がる。北杜市の辺りで残り145kmに対し航続可能距離は142km、大月市で残り92kmに対し航続可能距離は91kmと、微妙に“ショート”の状態が続く。心臓に悪い。大げさな表現に思えるかもしれないが、この事実を知ればそうではないとわかっていただけると思う。山梨県内にある水素ステーションは甲府市の1カ所のみ。長野県にステーションはない。つまり高速道路を降りても充填できないのだ。

一喜一憂を繰り返し、なんとか東京へたどり着き、出発前に充填した練馬のステーションへ戻ることができた。現状、FCVでの遠出にはEV以上の綿密な計画が必要ということを痛感した。904.7km走行し、10.2kg(1万2863円)を充填。トータル燃費は88.7km/kgだった。ICE なら9.1km/ℓのクルマと同じ費用(ガソリン1ℓ130円換算)がかかったことになる。

次回はクラリティFCの日常の使い勝手について報告したい。

【短期集中連載インデックス(予定)】
第1回●静かなる燃料電池まつりが始まった(2020年9月8日)
第2回●東京=岐阜往復レポート
第3回●水素スタンド探し
第4回●走りや使い勝手はどうか?
第5回●まとめ
※週一回程度更新で短期集中連載とする予定です。

(取材・文/塩見 智)

Let's block ads! (Why?)



"生活" - Google ニュース
September 20, 2020 at 06:21AM
https://ift.tt/32JPC76

FCVと1カ月生活記【第2回】東京=岐阜往復レポート - EVsmartブログ
"生活" - Google ニュース
https://ift.tt/2P0y0Nv
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update

Bagikan Berita Ini

0 Response to "FCVと1カ月生活記【第2回】東京=岐阜往復レポート - EVsmartブログ"

Post a Comment

Powered by Blogger.