中国依存を警戒、米国の
「保護主義」加速も
電気自動車(EV)普及によるリチウムの需要増は、中国依存リスクとも隣り合わせだ。中国のガンフォン・リチウムは、あるEVメーカーの調達網にも深く入り込む。米テスラだ。
分解テスラのサプライチェーン
1万3428社を分析、中国企業は17%
テスラのサプライヤーの中でも中国は2番目に食い込む
蓄電池や非鉄金属精錬は中国依存4割
1万3428社のうち、リチウムイオン電池に関わる企業を抽出したところ、61社あった「蓄電池」関連企業のうち39%、アルミを除く「非鉄金属精錬」では全42社のうち40%、「無機化学」は102社のうち33%が中国企業で、国・地域別でトップだった。米国や日本、韓国、インド企業を上回り、電池周辺で影響力を持っている。EV世界首位のテスラですら、リチウムの「紅い鎖」につながれている実態が浮き彫りになった。
中国はテスラのEVの心臓部を握る
要所押さえる企業群、「ノーボレイ」「ガンフォン」
テスラに対して特に高い影響力を持つ中国企業はどこか。最終品メーカーがサプライヤーに対してどれほど供給を依存しているか最大10の指数で示したFRONTEOの「チョークポイントスコア」で比べてみた。分析すると、無機化学大手のノーボレイ・コーポレーションやガンフォン・リチウム、コバルト材料の浙江華友鈷業などの名前が浮上してきた。株主構成をみると、中国政府が一部影響力を働かせている企業も存在する。ノーボレイには9%、浙江華友鈷業には12%ほどを中国政府が間接的に出資する。
テスラに強い影響力を持つ中国サプライヤー
非鉄金属(アルミ以外)精錬上位10社
- 中国企業
企業名 | チョークポイントスコア |
---|---|
HINDALCO INDUSTRIES LTD | 6.850 |
HBIS CO LTD | 6.846 |
JING YUNHAI SPECIAL METALS CO LTD | 6.843 |
AMG CRITICAL MATERIALS NV | 6.258 |
CORPORACION NACIONAL DEL COBRE DE CHILE | 5.869 |
ZHEJIANG HUAYOU COBALT CO LTD | 5.749 |
GANZHOU TENG YUAN COBALT NEW MATERIAL CO LTD | 5.701 |
LS CORP | 5.564 |
RIO TINTO LTD | 5.547 |
TAEKYUNG INDUSTRIAL CO LTD | 5.482 |
蓄電池関連上位10社
- 中国企業
企業名 | チョークポイントスコア |
---|---|
SHENZHEN KEDALI INDUSTRY CO LTD | 6.853 |
MIRACLE AUTOMATION ENGINEERING CO LTD | 6.847 |
GANFENG LITHIUM GROUP CO LTD | 6.847 |
SHANGHAI PUTAILAI NEW ENERGY TECHNOLOGY CO LTD | 6.847 |
LG ENERGY SOLUTION LTD | 6.846 |
SEBANG GLOBAL BATTERY CO LTD | 6.842 |
SAMSUNG SDI CO LTD | 6.842 |
CONTEMPORARY AMPEREX TECHNOLOGY CO LTD | 6.842 |
BTR NEW MATERIAL GROUP CO LTD | 6.842 |
HANKOOK ATLASBX CO LTD | 6.842 |
無機化学上位10社
- 中国企業
企業名 | チョークポイントスコア |
---|---|
NOVORAY CORP | 7.134 |
MITSUI CHEMICALS INC | 7.092 |
NINGBO SHANSHAN CO LTD | 6.853 |
GANFENG LITHIUM GROUP CO LTD | 6.847 |
INNUOVO TECHNOLOGY CO LTD | 6.843 |
BEIJING EASPRING MATERIAL TECHNOLOGY CO LTD | 6.842 |
GEM CO LTD | 6.526 |
ANHUI ESTONE MATERIALS TECHNOLOGY CO LTD | 6.470 |
SHANDONG FENGYUAN CHEMICAL CO LTD | 6.466 |
TONZE NEW ENERGY TECHNOLOGY CO LTD | 6.261 |
EV・電池を囲い込む米国
インフレ抑制法の衝撃
リチウムイオン電池や、EV車両の生産など関連投資の囲い込みに熱を上げるのが米国だ。米政府は22年8月に成立した「インフレ抑制法(IRA)」で、エネルギー安全保障や気候変動に3690億ドル(約53兆円)を支出すると決めた。巨額の補助金で企業の投資を米国内に呼び込んでいる。
条件を満たしたEVなど「クリーン車両」の購入者は最大7500ドル(約105万円)の税額控除を受けられる。この条件が厳しい。電池に使う重要鉱物は友好国で40%以上、部品の50%以上を北米(米国、カナダ、メキシコ)で製造するよう要求する。中国を含む特定国の事業体からの供給も排除している。
バッテリーに3つのハードル
1.重要鉱物は友好国とリサイクル網で
リチウムなど重要鉱物のうち40%以上が「米国か米国の自由貿易協定国で採掘、加工されたもの」もしくは「北米でリサイクルされたもの」であること。24年から段階的に上がり26年末以降には80%に。
2.部品は現地化欠かせず
バッテリー部品のうち北米での製造、組み立て比率が50%以上であること。24年以降に段階的に上がり28年末以降は100%に。
3.中国企業の鉱物、部品は排除
中国を含む「懸念される外国」の事業体が製造、組み立てたバッテリー部品が23年末以降、使われていないこと。24年末以降は同事業体が抽出、処理したリチウムなどの重要鉱物も排除する。
7月末時点で控除対象として認められたのは米系メーカーを中心に34モデル。日本車や韓国車は対象外だ。北米の生産・供給網を整えなければ条件を満たすのは難しく、域内での投資を迫られている。
「with American」
「バイ・アメリカン(米製品の購入)」や「メード・イン・アメリカ(米国製)」は、トランプ前大統領のうたい文句だったが、バイデン大統領に変わり、保護主義的な政策は緩むどころかきつくなっている。24年の大統領選が近づくなか、経済安保は政策論争の争点となる。バイデン政権は気候変動対策や経済安保の脅威を大義に掲げ、クリーンエネルギー産業の育成にカジを切った。保守層の支持を集めるため、バイデン大統領の保護主義的な姿勢が強まる可能性がある。
バイデン発言集
2022年7月28日
(インフレ抑制法は)私たちに、中国と競争するだけでなく、世界をリードし、21世紀の経済競争に勝つ能力を与える
2022年8月16日
アメリカの自動車会社は、何十億ドルをも投じ、全土で米国製のEV、バッテリー、充電ステーションを製造している
2022年9月13日
アメリカで、アメリカの労働者、アメリカの企業、そしてアメリカ製の製品とともに未来を築いていく
米国は「バッテリーラッシュ」に
IRAを起爆剤に米国はリチウムイオン電池の巨額の投資が相次いでいる。ダラス連銀は22年時点での計画投資が400億ドルを超え、生産能力は21年から26年までに5倍以上に増えると報告している。米国はかつての「ゴールドラッシュ」、石油切削技術の革新でもたらされた「シェールガスラッシュ」に沸いた、今は「バッテリー(電池)ラッシュ」の様相だ。
米国は「バッテリーラッシュ」に
~現在、計画・建設中のリチウムイオン電池関連施設~
脱炭素技術と雇用、米国に流出の恐れ
原産国要件を課すIRAに欧州連合(EU)や韓国などは反発している。EVの北米生産、電池原材料の一定割合を米国と自由貿易協定(FTA)を締結する国からの調達に限るといった要件は、関連投資や雇用の米国集中を招く。脱炭素の有望技術や人材が米国に流出する恐れがある。EUが対抗策に動き出すなど、世界で保護主義的な政策の負の連鎖が強まりかねない。
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